主婦アルバイト
スーパーでバイトを始めて半年。来月から発注業務をやってほしいといわれました。やったことがないので不安です。どれくらい仕入れるとかわかりません。発注ってどうやるんですか?
こんな悩みにお答えします。
【初心者向け】
スーパーの発注マニュアル【事前準備編】
- 発注は全くやったことがない
- やったことはあるが自信がない
- 発注を新人に教える立場にある人
◆本記事の信頼性
この記事を書いている私は、東証一部大手スーパー(売上は日本でベスト5入)勤務歴25年、管理職歴(副店長・店長)は5年です。小売業界で長く働いた経験をふまえ、理屈や理論ではなく実践に役立つ解説をします。
発注歴も25年になります。
◆本記事でわかること
今回は、初心者向けの「スーパーの発注マニュアル【事前準備編】」を解説します。
私自身、大手スーパーで長く働き、発注業務をしてきたので参考になるはずです。
発注を全くやったことがない方にもわかりやすく解説します。
最後まで読んでみてください。
- 発注の基礎については、
【初心者向け】スーパーの発注マニュアル【基礎編】 - 実践的な発注については、
【特売発注】スーパーの発注マニュアル【実践編】
で詳しく解説しています。
【前提の話】発注についての事前確認
発注業務は小売業で重要業務のひとつになります。
発注の計画と数量しだいで売上も大きく変わるからです。その一方で足りなければお客様に迷惑をかけるばかりか信用も失います。
かといってたくさん発注すれば売れ残り、多額の値引きや廃棄になってしまいます。そうなると今度は会社の損失になります。食品ロスが増えれば社会的な信用を失い、企業としてのイメージダウンにもつながるのです。
発注業務への責任は、しっかり持たなければできません。
なので誰でも発注を任されるわけではありません。この記事を読んでいるあなたは、きっと主任や店長、オーナーから見込まれた方だと思います。その期待にこたえるためにも、最後まで読んで参考にしていただければと思います。
理屈や理論ではなく、現場、現場で25年培ってきた実践に役立つ知識とやり方を解説していきます。
発注量に正解はあるか?
これはよく聞かれますが、「正解はないけど、答えはあるはず」と思っています。
正解ではないかも知れないけど、この発注量が答えじゃないかと思ってやってるからです。これで足りるはずと…。
発注して終わりではなく、入荷した商品をどうするかが一番大事です。
翌日55ケース入荷してあなたはびっくり仰天!発注した後のリストを確認していないという初歩的なミスになるわけですが、そんなこといったってもう遅いです。
この場合、ほうれん草ですから1日、2日しか持ちません。
ミスをミスのまま終わらせるか、売上に貢献するかはあなた次第なんです。
だからといって、「発注はミスしてもいい、テキトーでいいんだ!」というわけではありません。
発注して終わりじゃないということです。
発注のレベル
発注には、いくつかレベルがあります。
- レベル0:毎回同じ商品を同じ数だけ発注している。
- レベル1:単品に限定され数量を任されている。
- レベル2:コーナーを任され、発注をしている。
- レベル3:部門全商品の発注ができる。
レベル1が初心者で、レベル2は見習い中、レベル3で上級者、社員で主任(チーフ)になります。つまり、レベル3の上級者がレベル1.2の発注者を教育するために指示しているということです。
レベル0は、発注とはいえないですね。同じ商品を毎日同じ数量入れるのは、考える必要がないからです。このような発注は、大手スーパーでは自動発注システムが導入されているので、この程度の発注なら解決済です。
レベル1は、発注の段取りや流れと発注機の操作のしかた、また発注を習慣づける意味合いもあります。ですから、レベル1の期間はそう長くないはずです。ある程度分かれば次のステップになるでしょう。
店によっては、いきなりレベル2からはじめる場合もあると思います。
ワンコーナーを任せて経験を積ませ、徐々にコーナーを広げ、全コーナー全商品の発注を任せられるようにしていきます。
それがレベル3の主任クラスです。
発注と時間
一日中発注をやってるわけではありません。
数ある業務の一つであり、発注時間も決まっているからです。
例えば
締めの時間は企業によっても部門によっても違うのでいえませんが、昼の12時、午後3時、午後6時など時間厳守で発注担当者は動いています。
忘れたでは済まないのです。
でも、なぜ主任やベテランの発注担当者は短い時間で、200とか300アイテムの発注ができるんでしょうか?なぜあんなにパッパッと数量を決められるんでしょうか?
「そりゃ経験が豊富だからでしょう」たしかにその通りです。
でも経験が豊富だと、なにが違うんでしょうか?
それが今回のテーマです。
【初心者向け】スーパーの発注マニュアル【事前準備編】
発注のやり方がわかることと、発注を任せられるは意味が違います。
多すぎず、少なすぎず、適正な発注を手際よくできる人です。
発注をするには、事前の情報収集が欠かせません。事前の情報が頭に入っていないと適正な発注や効率よく数百アイテムの発注を時間内に終わらせることができないからです。
いくら25年発注をしてきた私でも、初めて行く店で発注はできません。いろんなことを事前に確認しなければならないからです。
事前の情報とはなにか?
それがこちらです。
- 天気・気温・曜日
- イベント・催事
- 地域特性
- 在庫量
- 広告チラシ
- 売場計画
- データ
順番に解説します。
天気・気温・曜日
ここでのポイントは3つ
- 翌日と週間天気予報の確認:客数と流れに影響
- 最高・最低気温の確認:食べたくなるものに影響
- 曜日確認:曜日別のイベント(お肉の日・魚の日)
雪の予報でも同じです。
ただ、雪が降り積もった翌日は、たとえ晴れたとしても午前は買い物に来ません。午前中は路面凍結で車に乗りたくないからです。また家の雪かきにも追われるからです。
ウェザーマーチャンダイジングと呼ばれるものです。
曜日の確認は、曜日ごとにスーパー独自の企画があるからです。
例えば
- 月曜:パンの日
- 火曜:お肉の日
- 水曜:魚の日
- 木曜:野菜の日
- 金曜:たまごの日
- 土曜:ヨーグルトの日
- 日曜:お米の日
どの部門がなにを売り出すかによって、自分の部門も合わせて売り込む商品を決めたりします。
天気、気温、曜日は発注をする時、最初に確認すべき項目です。
イベント・催事・季節性
毎月、毎日なにかしらの行事・イベントがあります。
スーパーは行事・イベント・季節に連動して販売計画やチラシを作成しているからです。その時の旬な話題と旬な商品、メニューを提供しています。
例えば
- 国民的な行事:バレンタイン、GW、ハロウィン、クリスマス
- 学校行事:入学式、遠足、修学旅行、運動会、受験、卒業式
- 〇〇の日:土用丑の日、キウイの日、納豆の日、ハンバーグの日
- 季節:お正月、春分の日、半夏生、お盆、十五夜、冬至
- 旬:魚・果物・野菜の美味しい時期(鰹、桃、梨、たけのこ、南瓜)
昔からある日本の伝統行事と海外の行事を取り入れながら、誰も知らなかった「〇〇の日」を宣伝文句に使って売上を伸ばしています。
例えば
「へーそうなんだ、値段も手頃だし買って帰るか」となるわけです。
イベント・行事によって売場計画も発注量も変わるということです。
ここまでは、発注に必要な「外的情報」を確認してきました。
次は、「内的情報」を確認していきます。
地域特性
地域に伝わる昔ながらの風習、食べ方、味付けに合わせます。
スーパーは地域住民の風習や伝統を守り、伝えていく役割もあるからです。
例えば
- お正月の迎え方(お雑煮:丸餅、味噌、おすまし)
- 節分の迎え方(けんちん汁、そば、うどん)
- お盆の迎え方(もちをつく、蓮の葉を飾る)
- 冷やし中華(醤油ダレ・ごまだれ)
社員は異動で県外へ行くこともあります。
地元のパートさんから情報を仕入れ、売場作りと発注をしていきます。
知らずにいままでの経験だけで発注してしまうと地元の人から受け入れてもらえず、売上も大きく落とすことになるでしょう。
地域特性は、スーパーにとっては重要な情報です。
在庫量
店内にある在庫の量を確認します。
自分の財布にいくらあるか知らずに買物をするようなものだからです。
ここでのポイントは2つ
- 在庫には2つある
- バック在庫は全体の2割
在庫には2つある
- 売場在庫:売場で販売している商品
- バック在庫:まだ売場に出ていないストック品
これらを合わせて「在庫」とよんでいます。一般的に「在庫ありますか?」というのはバック在庫を意味しています。
でも発注をする際は、「在庫=倉庫にあるストック品」ではなく、売場にある商品も考慮しなくてはいけません。
なぜかというとこんな事例があります。
どうでしょうか?
こんな指示の出し方、発注のしかたは現場で非常に多いです。
どこが問題かというと
- 売場の状態は?
- そもそも1日何ケース売れてる?
- 前回分は何ケースでいつ入荷する?
- 今日発注したらいつ入荷する?
- 毎日発注できる?
考慮することはたくさんあります。
経験が豊富かどうかは、こういうことを考えなくても瞬時にできるところです。だから発注が速いんです。
バック在庫は全体の2割
全商品のバック在庫を持っていないということです。
全体の約2割くらいで、ほとんどは売場在庫のみになります。
- 売場在庫以上に売れる商品は限られている
- 1日2回以上品出しする商品も決まっている
- そもそも数万アイテムの在庫置場はない
上記の通りです。
売場在庫以上に売れる商品、1日数回品出しが必要な商品を「売れ筋商品」といいます。
発注をする時にバック在庫を確認する商品は全商品ではなく、全体の2割くらいであとは売場在庫での管理になるということです。
広告・チラシ
1年中、毎日チラシに商品が掲載されます。
1回のチラシで200アイテム以上の掲載があります。
発注前に担当する商品の明日の掲載品は?明後日は?と先の先を見る必要があります。漏れのないように慎重に確認します。
チラシはお客様への招待状ですから、送っておいて商品がないでは済みません。
ずっとポケットに入れて持ち歩き、何かあったらすぐ確認できるようにしましょう。
売場計画
スーパーの売場は4つあります。
- 定番:品揃え商品(全部門)
- エンド:季節・テーマのある売場(鍋・乾麺・パスタ)
- 平台:売れ筋・旬の商品(生鮮・日配部門)
- 催事特設:季節品・ギフト(正月・バレンタイン・お中元)
一般的なスーパーの売場レイアウト
※エンドの本数、レジ台数は縮小
4つの売場はすべて計画して作られていますが、計画のスパンが違います。
例えば
- 定番:年2回 (例:春・秋)
- エンド:季節ごとの切り替え
- 催事特設:1ヶ月~3ヶ月
- 平台:毎日~週ごとの切り替え
切り替えサイクルの速いのが平台ということになります。
ほぼ毎日、チラシや日替わり品と連動することで売場を変えています。この平台の計画を発注前にきちんと作成し確認することが大切です。
データ
発注数量を決める上で、補助として参照します。
データを基準に計算すれば大きなブレがないからです。しかし、すべての商品のデータを見ながら発注はしていません。
時間がないからです。
どんな商品はデータを見るのか?
- 売上金額の高い商品
- 販売点数が多い商品
- チラシ・日替わりの商品
- 価格が安く大量に発注が必要な商品
共通しているのは、売上が高く、バック在庫が必要な商品です。
それ以外の定番商品は、在庫をあまり持たず、売場在庫での管理になります。
どんなデータを参照しているか?
例えば
- 先週の同じ曜日のデータ
- その商品を同一価格で販売した時のデータ
- 前日の販売数と金額
なるべく直近のデータを使います。
但し、その日のデータに特別な事情がないか考慮しなければいけません。
例えば
- 曜日は同じだが祭日だった
- その日は朝から一日中大雨だった
- 台風が来る前日だった
- 夕方6時頃品切れしていた
- 夕方5時から大量に値引きした
データは同一条件で比べる、参考にするのが基本です。
ベテランの発注担当者は、毎日毎日、発注→品出し→翌日の残数→発注というサイクルをやっているので、商品ごとの平均的な販売数と発注数が頭の中にデータとして蓄積されています。なので、8割くらいはデータ見ずに発注して、チラシや日替わり品、売れ筋の商品のみデータを確認して品切れのないようにしています。
仮に、売れ残って在庫になったとしても、残った時の場合も考えていますから慌てませんし、上手に売り切ってしまします。この「発注と売り切り」をセットでできるようになると一人前ですね。
まとめ:発注をする時の事前準備のまとめ
今回は、「【初心者向け】スーパーの発注マニュアル【事前準備編】」と題して発注をするには事前の情報収集が欠かせないというお話をしてきました。
おさらいします。
発注には時間制限があります。一日中発注をやってるわけではありません。
でも、なぜ主任やベテランの発注担当者は短い時間で、200とか300アイテムの発注ができるのか?しかも適正に。
それが今回のテーマでした。
事前の情報収集とは
- 天気・気温・曜日
- イベント・催事
- 在庫量
- 広告チラシ
- 売場計画
- データ
上記の通りです。
ベテランの発注担当者の行動
- 天気やイベントの外部情報と在庫・チラシ・売場計画を頭に入れている
- バック在庫をもつ商品を理解しているので、全商品のデータは見ていない
- 8割の商品は、発注→品出し→残数のサイクルで発注量を理解している
- チラシ・日替わり・売れ筋品のみデータを参考にしている
- 残った場合の売り方も考えている
「発注→品出し→売り切り」はつながっています。発注ができるようになるには、品出しや売り方にも目を向けなければならないということです。
今回は以上です。
読めば読むほど、「この仕事は自分にあわないな…」と感じた方は、下記の記事をどうぞ。